【インタビュー】MINOR THIRD、狂気や危うさを誘発するダウナーポップの世界
取材・テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
やるせなさを感じる緊急事態宣言の鬱屈した日々。頭が破裂しそうな毎日だ。ロックの初期衝動に触れたくなる。そんな葛藤を、要注目の次世代ロックバンドMINOR THIRDが救ってくれた。ダークかつオルタナティブポップでメロディアスなサウンドが、歪んだ感情を解放してくれたのだ。
MINOR THIRDは、地元静岡の高校時代の同級生が上京した後、10代限定『未確認フェスティバル2019』へ出場するために結成された。まったくの無名、よく言えばダークホースだった長嶋水徳(Vo,G)、やあちゃん(Key)、koudai.(B)、田中 超 あすか(Dr)の4人。しかしながら、たった4ヶ月にしてファイナリストへ進出するという爪痕を残す。
時は2021年。いまだ続くコロナ禍の日々。ライフワークであるライブ活動がままならないなか、MINOR THIRDが初の全国流通CDとなる7曲入りのミニアルバム『THE NEGA』を2月17日にリリースする。ボーカル&ギター、そしてすべての詞曲を担当する、長嶋水徳に話を聞いてみた。
「わたしがやりたい音楽は、ギターをかき鳴らしてバンドサウンドの轟音の中にいること。上京後、高校時代にバンドやっていたメンバーに声をかけました。それで結成したのがMINOR THIRD。目的は『未確認フェスティバル』に出場すること。曲はわたしがデモを作って、バンドでアレンジしていくんです。」
彼女の音楽との出会いも独創的だ。まるで70年代にタイムスリップしたかのようだ。
「中学2年生の頃にグレて(苦笑)。当時やっていたバスケ部の顧問が変わって合わなくて辞めたんです。ヤンキーとつるむようになって、その代わりにギターを持ちました。当時は、R指定とかV系聴いていたり。あと、八十八ヶ所巡礼も好きで。エグいの聴いてたかな(笑)。作曲は高校生の頃から。学校行かずにネット観て音楽を聴いたり。学校で阻害されてたんです。その頃の負の感情が、今の作品にあらわれてますね。喜怒哀楽の“怒”の部分がわたしは強くって。それを音楽で表現しています。楽しい曲を書こうとしても怒りの部分が出てくるんです。あの頃に感じた気持ちが忘れられなくて。」
学生時代の負の感情から転じたエモーショナルなロック表現。疾走するビートに絡み合うメロディアスなポップセンス、心にずしっと響く詩的なリリックが刺さるロックな言葉たち、そんなカオティックな心情をノイジーな音像によって生命力ある表現へと具現化する世界観が魅力的なのだ。
「バンドをはじめた時、わたしたちにあったのは19歳の初期騒動のみでした。その後、“らしさ”を模索して“ダウナーポップ”というジャンルを掲げています。ミニアルバム『THE NEGA』で表現したかったのは、レゲエちっくな曲やオルタナやシューゲーザーな空気感とか、曲ごとに色が違うと思うんですけど、わたし正直、どんなジャンルの曲も作れるんです。でも、根本にはすべて“ダウナーポップ”がコンセプトとしてあって。それこそ、音楽がただただ快楽的で楽しいものだと思えれば楽な人生だと思うんですよ。わたしはそう思えなくって。カルマみたいなものですね。変な心持ちがあって、そこが狂気であり危うさとなって自分の表現へと結びついているのかなって。」
本作には、“ボーカロイドをきいていたいんだ”とシャウトするビートロックが突き抜ける「VOID IS ENOUGH」、ポップセンス輝く「学級会」に見え隠れするダウナーポップな危うさ、レゲエビートな「ゴクラクチョウカ」が解き放つエモーショナルなキャッチーさ、映画のワンシーンを切り取ったかのような「FUZZY」、ナイフのように尖った閉じた心をえぐる「もう何もかも暗がり」、バンドアンセムでありすべての感情を解放する「セッションが苦手な僕でも」、新境地を感じるドラマティックかつ曇りがかったセカイを映し出す「THE NEGA」など、楽曲から受ける衝動、リファレンスとして伝わってくるアーティストの幅は新旧問わず広い。まさに、音楽やカルチャーが好きで好きでたまらないという気持ちが伝わってくる、平均年齢21歳の4人組バンドなのだ。そろそろロックが待ち遠しくなってきた2021年の春目前。MINOR THIRDの躍進に期待をしたい。
●『THE NEGA』セルフライナートーク by長嶋水徳(MINOR THIRD)
1. VOID IS ENOUGH
「MINOR THIRDにとってのリード曲。冒頭部分の歪んだベースは、ART-SCHOOLで「UNDER MY SKIN」という好きな曲があってオマージュしています。曲のとっかかりは“ボーカロイドをきいていたいんだ”のフレーズからの歌詞から。構成を詰めて、サビはワンコードでわかりやすくリフレインして。美しいメロディー、コード感にこだわって。でも危うさを大事にしてますね。ボーカロイドはネイティブで知っていて、wowakaさんやハチさんが大好きでした。」
2. 学級会
「“耳をすましても 聞こえてくるのは 怒号ばかり”という歌い出しは、寝起きに書いた歌詞でした。メロディーと一緒に降りてきて。かなりポップな曲。軽快なドラム、弾けるようなピアノ、跳ねるようなベース、でも歌詞に毒があるっていうバンドのいいところが詰まったナンバー。歌詞は中2の頃、廊下で女子の大群に囲まれて“死ね”って言われたんですよ。それ以来、わたしの心の中ではずっと学級会が開かれていて。空に向かって叫んでいる曲なんです。」
3. ゴクラクチョウカ
「北野武監督が大好きで、歌詞のテーマは映画『3-4X10月』からです。お父さんが映画好きで、そこから知りました。“ゴクラクチョウカ”は、花の名前なんです。映画の中で拳銃を隠すシーンで使われていて。最高に好きで曲にしちゃいました。」
4. FUZZY
「8割ぐらい英詞で。ラスサビの日本語パートまで聴いてほしい曲。ガレージ風でタイトなイメージ、ギターリフから生まれました。MINOR THIRDは、愛や恋についての曲が無かったんだけど、この曲は一応、愛について歌いました。お気に入りです。」
5. もう何もかも暗がり
「伝えたいことはラスサビの4行。“クラクション”という単語も出てくるんですけど、冷たい浮遊した雰囲気をまとっていて。この曲は、尾崎豊さんのエッセイから構想を得ました。“騙されてるみたいだろ?”、ホントそんな世の中だよなって。」
6. セッションが苦手な僕でも
「MINOR THIRDを結成するにあたって、バンドのために先に書いて用意していた曲で。絶対この曲をやるぞって。それをみんなでアレンジしてレコーディングしました。とても大事な曲ですね。この曲があって『未確認フェスティバル2019』ファイナリストに残れたので。18歳、19歳の自分じゃなきゃ書けない曲なんですよ。初期衝動を大切に、でもキレイに録音したかったんです。バランス、兼ね合いが大変で。とはいえ、結果的に聴きやすくなったと思います。」
7. THE NEGA
「ミニアルバムを作るにあたって『THE NEGA』という表題曲を宅録で用意していました。初のバンドサウンドではない、エレクトロなトラックへ挑戦した曲で。MINOR THIRDの可能性の幅を広げる作品だと思っています。タイトルは、気持ちのネガティブと映像のネガフィルムを掛けていて。反対になるという意味というか。スモーキーなクモがかった感じがぴったりだなって。わたし妄想癖がすごいので、こんなタイトルでこんな曲をと早い時期から考えていました。」